脳室周囲白質軟化症
脳室周囲白質軟化症とは
脳室周囲白質軟化症(PVL)は、早産児あるいは低出生体重児に起こる脳室周囲白質の障害です。脳室周囲白質軟化症(PVL)は、早産児あるいは低出生体重児にとって脳神経系障害の最大の原因といわれ、側脳室周囲白質に局所的な虚血性壊死による多発性軟化病巣ができる疾患で在胎30週前後の早産児に多く認められ、姿勢や運動発達の障害(脳性麻痺)、知的な発達の問題(精神発達遅滞)、認知や行動の問題(発達障害)など神経学的後遺症の原因となります。
脳室周囲白質軟化症(PVL)の発生頻度
脳室周囲白質軟化症(PVL)の発生頻度は、在胎32週未満の低出生体重児の5%から15%であるという報告があります。また、日本のNICUでの33週未満の児に関する調査によると超音波検査では約5%、CT・MRIでは8~9%であったという報告もあります。
また、極低出生体重児の救命率の向上とともに発生率は増加してます。極低出生体重児の約7~14%に発症すると報告されています。
脳室周囲白質軟化症(PVL)が早産児に多い理由
脳室周囲白質軟化症(PVL)の明らかな原因は不明で多くの因子が関与すると考えられています。
脳室周囲白質軟化症(PVL)が低出生体重児に多い理由としては、以下のようなことが複雑に絡み合っていると考えられています。
早産児・低出生体重児の大脳白質は脆く、低酸素、虚血、感染に弱く壊れやすい。
早産児・低出生体重児の脳室周囲白質の血液を供給している動脈が十分に伸びきっておらず虚血に陥りやすい。
早産児・低出生体重児の呼吸器や循環器が未熟で不安定である。
出生前または出生後の子宮内感染、炎症など。
低二酸化炭素血症など。
脳室周囲白質軟化症(PVL)の発症因子
出生前因子としては、胎児仮死、多胎、分娩時仮死、絨毛羊膜炎、出生後因子として児の低血圧、低炭素ガス血症、無呼吸、徐脈、動脈管開存症、敗血症などがあげられます。
脳室周囲白質軟化症(PVL)の症状
一般には、重症例以外では無症状のことが多く、まれに重症例ではNICU入院中に以下のような症状が認められることがあります。
痙攣:一般に新生児では強直性痙攣が多いのですが、中枢神経系が未熟な早産児・低出生体重児では強直性もしくは口をモグモグさせることがあります。
呼吸の異常:過換気もしくは無呼吸がみられます。
心拍数の異常:無呼吸発作に徐脈を伴うことが多い。
痙性麻痺:重症例では後弓反張や両足が交差するscissors sign、四肢の痙攣性麻痺などがみられます。
脳室周囲白質軟化症(PVL)の診断
脳室周囲白質軟化症(PVL)の診断は、主に頭部超音波検査ーや脳MRIなどの画像検査により行われます。
頭部超音波検査で脳脳室周囲の高輝度病変が持続し、やがて嚢胞形成を認めます。MRIでは脳室周囲の嚢胞形成、側脳室の壁不整を認めます。
脳室周囲白質軟化症(PVL)の治療
発症後の有効な治療法はありません。そのため脳室周囲白質軟化症(PVL)は発症予防が重要となります。すなわち、適切な妊娠、分娩管理と新生児期の危険因子の回避といった予防が主体となりますが、病因が未開眼なため予防が困難といえます。
脳室周囲白質軟化症(PVL)の予防
脳室周囲白質軟化症(PVL)は原因も複雑で確立された予防法も少ないといわれていますが、周産期医療の発展に伴い嚢胞性PVLの発生頻度は減少して来ています。
出生前において、1週間以内に早産が予想される場合の母体へのステロイド投与は脳室周囲白質軟化症(PVL)を減らすことが示されています。
出生後における予防に関しては、脳虚血が脳室周囲白質軟化症(PVL)の原因となるため超音波検査、血液検査などをもとにしっかりとした循環管理が重要であるとされています。
早産児では、低二酸化炭素血症で脳血流が減少することにより脳室周囲白質軟化症(PVL)や脳性麻痺のリスクが高くなるため呼吸管理が重要であるとされています。
脳室周囲白質軟化症(PVL)の予後
生後数ヵ月は無症状のことが多く、生後6か月以降に下肢優位の痙攣性麻痺が出現してきます。脳室周囲白質軟化症(PVL)の好発部位は、大 脳白質から脊髄に下行する運動神経が多く含まれており、とくに脳室に近い部位には、下肢に行く神経線維が通っているため、脳室周囲白質軟化症(PVL)は下肢の痙攣性麻痺が多くみられます。