膀胱尿管逆流症
概念・定義
膀胱尿管移行部の先天的な形成不全や下部尿路通過障害などに起因する逆流防止機構の二次性の破綻により膀胱内の尿が尿管ないし腎孟に逆流する現象である。下部尿路機能異常や排便機能異常が二次的因子として関与することも多い(1, 2)。
症状
VUR 自体は無症状であるが,有熱性尿路感染を契機にVUR が発見されることが多い。小児尿路感染症の30-50%にVUR が存在するといわれている(5)。出生前診断された水腎症の精査によりVUR が診断される場合もある。小児期に反復性腎孟腎炎がありながら,VUR が診断されなかったケースや先天性逆流性腎症が高度な場合には,学校検尿などで蛋白尿を契機にしてVUR が診断されることもある。
治療
VUR の治療の最大目標は腎孟腎炎と腎障害(逆流性腎症)の予防であり,この目的を達成するために内科的あるいは外科的治療が選択される。外科的治療として,従来の開放手術に加え,低侵襲な内視鏡的注入療法も施行されている。VUR に対する保存的治療の理論的根拠は,VUR 自体は自然消失する可能性のある現象であり,腎孟腎炎さえ起こさなければ腎癩痕が発生する危険は極めて低いということである。一般に,VUR 自然消失率はVURgrade と相関し,また経過観察期間が長いほど高くなる。抗菌薬予防投与による内科的治療と手術治療を比較すると,腎癩痕の発生頻度は両者で差がないことが報告されている。このように,内科的治療と手術治療では腎障害の予防という治療の最大目標におけるoutcome には有意差がないが,腎孟腎炎は腎障害の最大のリスクであり,breakthrough UTI(抗菌薬予防投与下での尿路感染)があった内科的治療例に対しては手術治療が考慮される。また年長児以降の高度VUR は自然消失が期待しにくい事実もあり,持続する高度のVURは手術適応とする意見が多い。gradeIII~V の高度VUR では,DMSA 腎シンチグラフィにて腎搬痕を認める例は腎疲痕のない例に比べてその後のbreakthrough UTI の頻度が圧倒的に高いことが報告されている(60%対6%),したがって,VUR 診断時の腎搬痕の有無はその後の治療法の選択に影響する重要な要素である。
一方,VUR に対する保存的治療は,抗菌薬予防投与とVUR に悪影響を与える因子の是正からなる。排尿筋過活動(過活動膀胱)を伴う幼児期以降のVUR に対しては,頻回排尿・時間排尿(2 時間ごとの定時排尿)を徹底させるとともに,抗コリン薬により排尿筋過活動のコントロールをはかる。便秘を伴う例では,抗コリン薬の使用により便秘が悪化する可能性があるので,食事指導や緩下薬を適宜使用する。抗菌薬の少量,長期予防投与は,有熱性UTI の頻度を減らすという報告がある一方で(6, 7),コクランレビューでは,耐性菌の出現の問題を指摘しており,有用性は少ないと結論している(8, 9)。さらに,最近行われた抗菌薬予防投与の効果を比較したランダム化比較試験(RIVUR 臨床試験)でも,抗菌薬の予防投与は有熱性UTI の頻度は減らすが,腎瘢痕を生じる頻度は長期的には非投与群と差がなかったとしている(10)。また,抗菌薬をいつまで続けるかについても一定の見解はないが,排尿習慣が確立した小児で,正常な排尿パターンがあり,尿路感染の既往が少ない場合には,抗菌薬予防投与を中止しても問題は少ない。
抜粋元:膀胱尿管逆流(下部尿路の閉塞性尿路疾患による場合を除く。) 概要 - 小児慢性特定疾病情報センター (shouman.jp)