脳性麻痺

脳性まひの定義

「受胎から生後4週以内の新生児までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性の運動障害、または将来正常化するであろう運動発達遅延は除外する。(1968厚生省研究班)」

 

言葉をかえると、“脳の成長発達期に生じた障害による進行しない運動や姿勢の異常”となります。そのため、病因や症状・合併症状も含めて、たいへん多様な一群となります。また、国によっては幼児期の後天性脳障害も含めた概念として使用される場合もあります。

日本での頻度は約1000出生あたり2人前後とされます。

 

脳性まひの分類

病因発生時期による分類

 

・出生前(脳形成異常、胎内感染、薬物・中毒・低栄養、胎内での循環不全など)

・周生期(出生前後の低酸素状態、脳出血、感染症など)

・後天性(出生後の髄膜炎・脳炎、脳出血など)

 

症状による分類

分布:(1)四肢麻痺、(2)両麻痺(下肢優位の麻痺)、(3)片麻痺(片側の麻痺、通常は上肢>下肢)、(4)対麻痺(下肢のみの麻痺)、(5)三肢麻痺や単麻痺など

 

麻痺の病型:(1)痙直型(痙性spasticity-急速な他動的動きで手足を固くする。固縮rigidity-持続的に固くする。両者が混ざり、つっぱり、スムーズな運動ができない状態)、(2)アテト―ゼ型(突然の運動や低緊張を併せ持ち、精神的緊張に影響される顔~腕・手の自己コントロールできない動きを伴う)、(3)低緊張型(くったりとして、姿勢保持、平衡感覚障害あり)、(4)失調型、(5)混合型

脳性まひの症状

生後1-3ヶ月は重症例以外は症状をとらえにくい時期です。その後、徐々に運動発達の遅れが明らかになります。 正常な発達は、原始反射や緊張性姿勢反射など、未熟な脳のサインが消えて、立ち直り反応や平衡反応などが出現し、運動や姿勢を獲得していきます。脳性麻痺では月齢に沿ったこれらの変化の異常をみとめたり、手足の動きや緊張の異常を呈してきます。

 

合併する他の症状

 

①てんかん

約40%で何らかのけいれん発作を合併します。

 

②精神遅滞

運動麻痺の分布が広いと合併率は高くなります。自閉スペクトラム症や学習障害などの合併もありますが、アテト―ゼ型や両麻痺型などは精神遅滞がないこともあります。

 

③視覚・聴覚障害

斜視や眼振。胎内感染例は難聴、白内障などの合併が多いとされます。

 

④摂食嚥下障害

協調運動障害から噛み砕けない・飲み込めない・誤嚥を生じます。栄養状態や誤嚥性肺炎のために経管栄養が必要となる場合もあります。

 

⑤その他

睡眠障害、成長障害、思春期早発症など

 

二次的障害

 

年余にわたる異常姿勢や運動の偏りから、骨格の変形、特に側彎や関節拘縮・脱臼が生じます。体の正中で頭がまっすぐな姿は稀で、偏りやねじれを伴ってきます。この骨格の変化が、他の二次的障害を招きます。

 

①胃食道逆流症(GERD)

胃から食道への逆流防止機構が変形により弱まったり、緊張亢進のため腹圧がかかり、胃から食道へ逆流を生じます。不機嫌、嘔吐、胃出血などの症状を繰り返し、逆流物を誤嚥すると肺炎の繰り返しにもなります。薬物治療で効果が乏しい場合では噴門形成術と胃ろう造設の手術を行います。

 

②呼吸障害

空気の通り道となる気道が狭くなったり、痰が増加、背骨や肋骨の変形で呼吸の動きが不十分となる、などにより気管支炎や肺炎を繰り返す場合もあります。誤嚥も呼吸障害には関係してきます。

 

脳性まひの治療

①リハビリテーション

理学療法、作業療法などを行います。

 

②薬物治療

筋の緊張を和らげる薬剤の投与を行います(ジアゼパム、フェノバルビタール、塩酸エペリゾン、塩酸チザニジン、エチゾラム、バクロフェンなど)。

 

③整形外科的治療

ギブス・装具、選択的緊張筋解離術などの手術を行います。

 

④ボツリヌス毒素治療

(下記参照)

 

⑤バクロフェン髄腔内投与

腹部の皮下にポンプを埋め込み、24時間持続的に脊髄髄腔内に薬剤(バクロフェン)を投与することで痙縮を軽減します。

 

⑥脳外科的治療

選択的脊髄後根切除術、下肢痙縮に対して有効。深部脳刺激術などを行うこともあります。

 

脳性まひのボトックス治療

当科では、2004年8月より脳性麻痺児の痙縮に対する筋注治療をおこなっています。脳性麻痺の症状をコントロールする治療の一つとして、効果的な治療手段です。

ボトックス®はボツリヌス菌が作るボツリヌス毒素を製剤化しています。神経から筋肉へのアセチルコリンという物質の伝達をブロックして、筋肉の痙縮や緊張をおさえます。

 

対象としている症例

 

下肢痙縮に伴う尖足

痙性斜頸

過緊張状態で、日常生活に支障をきたしている場合(不眠・発汗・発熱・痛みなど)

その他 局所の筋肉の収縮を抑える必要性がある場合

副作用

下肢への治療: 痛みや脱力が2%程度で報告されています。

頸部への治療: 飲み込みにくい、唾液がふえる、吸引が頻回となることがあります。2週間以内に改善していきます。

効果持続は3-4カ月といわれます。効果が1-2カ月でピークとなり、徐々に低下していきます。頻繁に治療を繰り返すと抗体ができてしまい、効果がなくなることがあります。そのため、最低3か月は治療間隔を設ける必要があります。

 

抜粋元:脳性麻痺 - 神経内科|神奈川県立こども医療センター (kcmc.jp)