上腸間膜動脈(SMA)症候群

概要

上腸間膜動脈症候群(じょうちょうかんまくどうみゃくしょうこうぐん)とは、大動脈から分岐する上腸間膜動脈くが十二指腸の一部分を圧迫してしまい、消化管の通過障害が生じた状態を指します。上腸間膜動脈と十二指腸の間には脂肪が存在しており、両者の間で極度の圧迫が生じないようにクッションとしての役割を果たしています。しかし、この部位の脂肪が少ないと緩衝材かんしょうざいとしての役割を十分に果たすことができず、上腸間膜動脈症候群を引き起こすと考えられています。

上腸間膜動脈症候群は、ダイエットにより過剰にやせている女性や、病気により急激にやせた際に認めることもまれではありません。消化管の通過障害が生じている状態であるため、食後の嘔吐や腹痛を見るようになります。こうした症状は、仰向けになると増悪する傾向があります。上腸間膜動脈症候群の治療は原因により、食事摂取方法の工夫で改善する場合や、ときに手術的な介入が必要となる場合もあります。

 

原因

消化管は食道、胃、十二指腸、小腸、大腸に大きく分けることができます。さらに、十二指腸は球部、下降部、水平部、そして上行部に分類されています。十二指腸は胃と小腸をつなぐ消化管ですが、ちょうど水平部に当たる部位の近くには「上腸間膜動脈」と呼ばれる動脈が走行しています。上腸間膜動脈は、腹部大動脈から直接分岐する血管の一つであり、45〜60度程度の角度で大動脈から分岐しています。この角度で形成される空間に、十二指腸の水平部は位置しており、すなわち水平部は上腸間膜動脈と大動脈に挟まれる位置関係になっています。

通常は、この空間には脂肪が存在していますが、脂肪が減少すると上腸間膜動脈の分岐角度が急峻になります。すると、上腸間膜動脈と大動脈の間のスペースが狭くなり、間を走行する十二指腸が外部から圧迫されやすくなります。圧迫の程度が強い状況では、十二指腸の内腔が狭くなり食物の通過障害を引き起こし、上腸間膜動脈症候群を呈するようになります。

上腸間膜動脈症候群は、脂肪が急激に減少することが一つの原因であると考えられています。ダイエットによる急激な体重減少、側弯症などの解剖学的な異常、腹部手術の既往歴、長期臥床、膵炎、胃潰瘍など、さまざまな原因が考えられます。

 

症状

上腸間膜動脈症候群では、十二指腸における食物の通過障害に関連したものが主な症状です。食事を摂取してもうまく食物が通過しないため、吐き気や嘔吐、上腹部の痛み、腹部膨満ぼうまんなどの症状を認めるようになります。十二指腸に対しての上腸間膜動脈の圧迫は、仰向けになっている状態で増悪し、うつ伏せになると空間的な広がりから狭窄が軽減します。そのため、上向きで症状が増悪し、腹這いで症状が改善するといった姿勢による症状変化も特徴の一つです。

嘔吐をして消化管内のものがなくなると腹部症状がなくなります。また、通過障害による症状を慢性的に繰り返すことも多く、精神的なもので吐いているのだろう、という誤解を受けることもまれではありません。このような臨床経過から、精神的な病気として治療介入を受けることもあります。

 

検査・診断

上腸間膜動脈症候群の診断は、食事に関連した症状変化から疑われることになります。診断に際しては、腹部単純X線(レントゲン)写真や超音波検査、腹部CTといった画像検査が重要になります。こうした画像検査を行うことで、十二指腸の水平部よりも口に近い部位の消化管が拡張していることを確認することがあります。また、腫瘍しゅようなどによる十二指腸に対する物理的圧迫所見を否定することができるうえに、上腸間膜動脈と十二指腸の位置関係も描出することが可能です。

腹痛に関連して上部消化管内視鏡検査が行われることもありますが、上腸間膜動脈症候群の診断に際してはあまり有用ではありません。通過障害があったとしても、内視鏡が通過する際に狭窄きょうさくが解除され、結果として上腸間膜動脈による狭窄が観察されなくなってしまいます。

 

治療

上腸間膜動脈症候群の治療は、原因となっている状況を解除することが第一に検討されます。具体的には、体重減少が原因と考えられる場合には、適切な体重増加を図ります。長期臥床が原因である場合には、離床を促すことになります。また、栄養チューブを狭窄部位に対して挿入したり、点滴治療を行ったりする場合もあります。上腸間膜動脈症候群の症状は体位で増悪・軽快を示すこともあるため、食後に楽になる姿勢を取ることが推奨されます。また、一度に大量に食事を摂取するのではなく、少量ずつに分けて食事摂取をするという工夫も必要です。なかには、腸蠕動調整薬や整腸剤が奏功することもあります。

重症例に対しては手術による治療介入も検討されます。手術により十二指腸に対しての狭窄を解除するようなアプローチを行います。上腸間膜動脈症候群が長期間持続すると、栄養失調や脱水、電解質異常、誤嚥性肺炎などの健康被害を起こすことになります。そのため、早期の段階から病気を診断し、適切な治療を行うことが非常に重要です。

 

抜粋元:上腸間膜動脈症候群について | メディカルノート (medicalnote.jp)