G-9 暮らしに役立つ『飛行機旅行の手順書』
この記事では医療的ケア児と飛行機旅行する上での手順をご紹介します。この手順書は、人工呼吸器装着のお子さん(2歳)とJAL国内線に搭乗した事例を基に作成されました。お子さんの状態、航空会社によって内容が変わってくる可能性がございますのでご留意下さい。
同じ内容のPDFをこちらからDLできます → 医療的ケア児との飛行機旅行手順書(PDF)
(1)飛行機旅行の事前準備
できれば搭乗2か月前までには
・まずはJALプライオリティゲストセンターに電話します。その時点で搭乗日が未定でも、持ち込む医療機器、医療的ケア、当日係員に手伝ってほしいことなどの情報を先に伝えておくと、引継ぎを作っておいてもらえます。こちらから伝えた情報を元にJALが確認をとるなど、何度もやり取りが必要になることもあるので、最初のコンタクトは早めが良いです。
・6桁の引継ぎ番号が伝えられるので、次回以降の問い合わせ時にはその番号を伝えるとスムーズです。毎回同じオペレーターに担当してもらうことはできないので、この引継ぎ番号を控えておくことが重要です。
航空会社に伝えること(事前に考えておくこと・確認しておくこと)
① 子供の状態・病名・移動手段・機内で行う医療的ケア
・最初のコンタクトの際には、例えば以下のように伝えるとスムーズです。
(例) ・子どもが人工呼吸器など沢山の医療機器を使用している重症心身障害児です。 ・〇月ごろに搭乗を予定しており、今回が初めての搭乗です。 ・搭乗時に満〇歳、身長約〇㎝、体重〇㎏です。首が座っていません。 ・てんかんの持病があり、時々発作がありますが、基本的には家族だけで対処可能です。 ・寝たきりの状態で、普段の移動手段は小児用バギーです。 ・バギーを預けた後は母親が抱っこ、父親が人工呼吸器を持って移動させます。 ・着席時は膝上に抱っこします。 ・機内で行う医療的ケアとしては、気管・口・鼻を時々吸引機で吸引する必要があります。
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② 持っていく全ての医療機器の詳細
取扱説明書やメーカーのホームページなどを見て事前に確認しておきましょう。こちらから伝えた情報を元に、JALのほうでもメーカーに問い合わせたりして機内持ち込みが可能か、機内・上空での使用が可能なものかなどを確認してくれます。
・製品名、型番 ・メーカー ・サイズ(座席下や座席の上の物入など、収納スペースに入るかを確認してくれます) ・電源は外部電源か、バッテリーか。バッテリーの場合、種類とWh数。
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※通常、機内持ち込みができるバッテリーのWh数は160Whまでと規定されていますが、提出書類の中の、医師が記入する診断書に『医療機器に使用するためのバッテリーは生命維持のために必要ですか』という設問があり、『はい』にチェックを入れてもらえば、容量の制限なく持ち込むことができます。この事実をオペレーターが知らないことが多々あり、誤って断られてしまうケースがよくあるようです。もし断られても必ず上長に確認をお願いしてください。
(本事例における持ち込み機器:人工呼吸器、人工呼吸器の予備バッテリー、加温加湿器、吸引機、蓄電池x2個)
③ 酸素ボンベは持ち込むか、飛行中も使用するのかを決めておく
・酸素ボンベを持ち込む場合、取り扱っている業者さんに仕様証明書を記入してもらう必要があります。また医師が記入する診断書には、常時使用するかどうかを記入する欄があります。
・酸素ボンベは飛行機内においては危険品の扱いなので、他の医療機器よりもチェックが厳しいです。当日も実物を見せて、仕様証明書と内容が合っているかを確認されます。酸素ボンベを自宅に複数本持っている場合は、仕様証明書に記載したものと違う物を持って行かないように注意しましょう。
・上空では健康な大人でも酸素飽和度が通常時よりも2~5%低くなることが多くあります。普段在宅酸素を使用していないお子さんでも、予防的に酸素を流しておくという場合もあるようです。事前に医師と相談しておきましょう。
④ バギーや車いすについて
・バギーや車いすは機内には持ち込めませんが、事前にお願いしておくことで、チェックインカウンターで預けるのではなく飛行機の入り口まで利用し、搭乗直前に貨物室へ預かってもらうことができます。降機するときにも到着ロビーではなく飛行機の出口で返してもらうことができます。
・貨物室への積み込みのために、バギーは折り畳み可能なものかを聞かれます。例えばきさく工房さんのレストワゴンMの大きさ(幅54㎝×高さ78㎝×奥行134㎝)なら折りたたまなくても貨物室への搭載はできるようです。飛行機の機種によって貨物室の大きさは変わるので、できるだけ小さくたたまなければいけない場合もあるかもしれません。また、折りたたまずに預けると破損したり傷ついたりすることがあるようなので、折りたたんで預けることが推奨されています(栄養ボトルをぶらさげる注入棒も可能であれば取り外して下さい)。尚、預ける際に汚れが心配であれば、大きなビニールをかけて搭載してくれます。お持ちのバギーの大きさは事前に確認しておき、JALにも正確に伝えておくことをお勧めします。
・多くの場合、飛行機には、機内の狭い通路を通ることのできる機内専用の車いすが搭載されています。大人用のサイズでリクライニング機能がないものなので、身体の小さい子や座位を保つのが難しい子だと使用が難しいかもしれませんが、飛行機の入り口から座席までの間のみ使用することができます。搭載のない機材もあるので、使用を希望する場合は事前に確認してもらいましょう。
⑤ 機内ではどのように着席したいか、希望を伝えて相談する
・通常3歳未満の幼児であれば大人の膝上に抱っこして搭乗できます。3歳以上の子は座席を購入して一人で着席することになっています。ですが、身体が小さい場合や一人で座位を保てない場合は3歳を超えていても着席の仕方について相談に乗ってくれると思います。抱っこでの着席が難しい大きなお子さんで座位を保てない方の場合、ストレッチャーに寝た状態での搭乗になる場合もあります。
・座席に設置するチャイルドシートを借りることもできます。(HPに写真が載っています)ただリクライニングがほぼきかないとのことなので、ある程度座位が保てる子でないと利用は難しいかもしれません。希望する場合は事前予約が必要です。
・上体固定用補助ベルトを借りることもできます。(HPに写真が載っています)希望する場合は事前予約が必要です。
・持ち込む医療機器が多い場合や、常に手元に置いておきたい物が多い場合は、医療機器用にエクストラシートの購入も検討すると良いです。路線によって値段は変わりますが、だいたい旅客運賃よりは安いです。我が家の場合は吸引機とケア用品など入ったバッグを隣の席に置きたかったので、エクストラシートを1席購入しました。超過手荷物用のエクストラシートの料金は、路線によって異なりますが3,150円~11,500円程度です。
・尚、壊れやすい機器や10㎏より重い機器は座席上の物入れに入れるのは危ないので、できるだけ足もとの、前の座席の下に収納することをお勧めします。酸素ボンベは必ず座席の下に収納する決まりになっています。
(本事例における機器の配置:カフアシストと吸入器は専用バッグに入れた状態で席上の物入れへ、蓄電池x2個、人工呼吸器、加温加湿器、酸素ボンベ1本を前の座席の下へ。2席分のスペースで十分スペース確保可能。ちなみに呼吸器回路のウォータートラップは、シートポケットに洗濯ばさみで固定するととても良い感じです)
=事前座席指定をするときの参考=
★ 搭乗・降機に使用される出入口は多くの場合、小さな飛行機であれば前方の1ヵ所、大きな飛行機であれば前方及び中央の2ヵ所で、いずれも左手側です。出入りが楽であることを優先するのであれば、出入口の近くが良いです。
★ 飛行機は一般的に、機体の後ろの方が飛行中の揺れが大きくなりやすいです。またエンジンの真上だと音や振動が気になるという方もいます(だいたいの機材が機体中央の翼の下あたりにエンジンがあります)。揺れによる体調不良を心配されるのであれば、何列目あたりが良いか確認してもらいましょう。
★ 窓側や、後ろが壁になっている座席だと、色々なケアをするときに周りの人の目が気にならないという点では良いかもしれません。
★ もちろん予算が許せばファーストクラスやJクラスの利用も可能です。座席の幅や足元が広いので子供を抱えていても着席しやすいと思います。ただ、ファーストクラス・Jクラス・普通席のパーテーション前の席など、足元が広くなっている席の場合、前の座席の下に荷物を収納することができず、ほとんどの持ち込み荷物を座席上の物入れに入れないといけないかもしれません。搭乗便が決まり、機材が決まっていれば、座席の特徴を教えてもらうことができます。
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⑥ 当日グランドスタッフやCAに手伝ってほしいことがあれば、リクエストしておく
医療機器などで持ち運ぶ荷物が多くなるかと思います。必要であればグランドスタッフが、チェックインカウンターから飛行機の乗り口までや、到着後には飛行機からタクシー乗り場までなど、荷物を運ぶのを手伝ってくれます。事前にリクエストを伝えておくとスムーズです。
その他、当日までに準備しておくこと
① 機内に持ち込む医療機器、貨物室に預ける医療機器を分けておく
・通常、機内に持ち込む手荷物は、数や重さに制限がありますが、医療機器に関してはその限りではありません(我が家は全ての医療機器と蓄電池を機内持ち込みにしました)。
・リチウムイオンバッテリーをはじめとする特定の種類のバッテリーを使用している機器は、航空運送上の危険物の規定により、貨物室に預けることができません。機内での使用予定がなくても、機内持ち込みとなります。
・天候が悪い場合には、飛行時間が大幅に長くなったり、目的地空港以外の空港に着陸したり、出発空港に引き返すなどのこともあります。電源やケア用品に余裕を持って準備しましょう。機内のコンセントは医療機器には使用できません。(台風や雪の時期は運航のトラブルが多いので注意が必要です)
② 機内に持ち込む荷物・預ける荷物を分けておく
・コロナ禍では毛布の貸し出しが中止になっていました。機内は寒いこともあるので、上着は多めに持っていくのが良いと思います。
・ミルク用のお湯や栄養剤は機内持ち込みができます。また多くの空港は搭乗口付近にも授乳室があり、そこでお湯を調達することもできますし、機内でも提供してもらえます。
③ 提出書類を準備する
・医療的ケア児の搭乗時には、多くの場合、以下の書類提出が求められます。全てJALのホームページからダウンロードして記入します。揃い次第、遅くとも搭乗2日前までにはプライオリティゲストセンターにFAXで送ります。早く用意できるようなら早めに送ったほうが良いと思います。
★診断書(医師が記入。通常は搭乗日2週間以内に記入したものが有効ですが、医師が〇日まで有効と記載してくれれば、2週間より前に記入してもらうことも可能とのことです。万が一体調不良などで旅程を変更しなければならない時のことを考えて、期限は実際の搭乗日よりも余裕を持って書いておいてもらうと良いと思います)
★同意書(保護者が記入) 診断書・同意書について(お手伝いを希望されるお客さまへのご案内) - JAL
★酸素ボンベの仕様証明書(酸素ボンベの取り扱い業者が記入) 酸素ボトルをご利用のお客さま(お手伝いを希望されるお客さまへのご案内) - JAL
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旅程が決まったらできるだけ早く予約を取る
・搭乗便の予約取得は、予約センターに電話をするのでも、ネットで取っても大丈夫です。プライオリティゲストセンターでは予約取得は行ってくれないので、自分で予約を取ってから再びプライオリティゲストセンターに電話することになります。予約を取ったら6桁の予約番号が取得できるので、それをプライオリティゲストセンターに伝えると、事前に作っておいてもらった引継ぎと紐づけてくれます。
・また、搭乗便が決まったら事前座席指定をすることができるようになります。ネットでその便の飛行機のシートマップを見ておくと指定しやすいです。事前座席指定はネットですることもできますが、相談したいことがある場合や、特別なリクエストがある場合は予約センターに電話してお願いしましょう。
(2)飛行機旅行当日
飛行機に乗るまで
・遅くとも出発時刻の1時間前までには、スペシャルアシスタンスカウンターに行きます。ここでチェックインをして、荷物を預け、持ち込む医療機器が事前の申告と相違ないかなどのチェックが行われます。カウンターが混んでいることもあるので、時間に余裕を持っていきましょう。
・次に保安検査を通過します。医療機器は1つ1つ分けてトレイに載せて検査してもらうので、これにも時間がかかります。液体もカバンから出して、専用の機械で検査されます。
・羽田などの大きな空港は、保安検査場から搭乗口までがかなり遠いこともあります。時間に余裕を持って検査を通過しましょう。
・搭乗開始の案内があるまでは搭乗口付近で待ちます。優先搭乗で、一番最初に機内へ案内してくれます。CAの手を借りながら持ち込み荷物を収納し、子どもが安全に着席できるか確認をしましょう。
・飛行機の入口でバギーや車いすを預ける場合は、入口付近で子どもを降ろしたらバギーや車いすをたたみます。航空会社のスタッフはバギーのたたみ方はわからないので、自分でたためるようにしておきましょう。
搭乗日当日 飛行機を降りたら
・バギーや車いすを利用している方は、多くの場合一番最後に降機します。
・飛行機の出口付近、または到着ロビーでバギーや車いすを返却してもらいます。
・到着ロビーで貨物室に預けていた荷物を受け取り、目的地に到着です!
以上、医療的ケア児と飛行機旅行するための準備に関する手順でした。参考になれば幸いです。