第3回 胃瘻から食事をしてみよう!
胃瘻と経鼻管との大きな違いのひとつが、ミキサー食の投与が可能になるという点です。
ミキサー食とは、食事をミキサーで完全に潰し粒のない状態にした食事のことです。
ペースト食と言い換えることもできます。
ところで、ミキサー食ってイメージできますか?
とりあえずミキサー回せばいいの?
何から作ったらいい?
水分ってどれくらい入れるの?
どのくらいの硬さで作るもの?
どのくらいの量で作るもの?
色々心配になりますよね。
「とりあえず栄養配分を考えよう!」
胃瘻栄養とはいえ、作る前の段階は今日のお夕飯を考える手順と一緒です。
「今日はお客さんが来るから、ごはんの量は多めに作らないといけない。どれくらいの量が必要?」
「メインは肉にするとして、何グラム用意すればいいかな?」
などなど、色々考えてから作りますよね?
ということで、胃瘻用のご飯(ミキサー食)を作る前の準備を4段階にしてみました。
① 主治医に相談
※水分制限などがある場合は必ず相談して下さい。
② 栄養士に相談
身近に相談できる栄養士がいれば相談して摂取量の目安を出してもらいましょう。
上手く相談できれば栄養関連はお任せしてしまった方が楽!
栄養配分は栄養士がいれば、だいたいの場合は解決すると思います。
ですが、相談できる栄養士がいない場合は自分である程度考えないといけません。
いたとしても、自分で考えられるに越したことはないでしょう。
③ 1日の摂取カロリー、水分量を確認する
●摂取カロリーの目安
厚生労働省の策定する「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では下のようになっています。
参考)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
02_各論_1-1_エネルギー_cs6_0116.indd (mhlw.go.jp)
また、日本医師会では簡単に必要カロリーが計算できるツールを公開しています。
https://www.med.or.jp/forest/health/eat/01.html
注意が必要なのは、一般的に言われる必要カロリーが年齢ベースになっていることです。
医療的ケアが必要な子の場合、体重が年齢相当以下になることも稀ではありません。その場合、その体重相当の年齢の子の必要カロリーを参照することも必要です。
必要カロリーを年齢ベースで考えるべきか、体重ベースで考えるべきかは難しいところかと思いますので、詳しくは主治医とも相談が必要です。
個人的には体重の維持を目標とするなら体重ベースでのカロリーを、体重アップを図っているのであれば年齢ベースでのカロリーを参照するのがよいのではないかと思います。
●水分量
水分量の摂取目安については完全に統一した見解はないようですが、おおよその目安は表の通りです。
水分量 (ml/kg/日) |
アミノ酸 (g/㎏/日) |
熱量 (kcal/kg/日) |
|
1歳未満 | 100 | 2.5 | 94 |
1≦ <3 | 80 | 2.0 | 75 |
3≦ <6 | 75 | 1.9 | 70 |
6≦ <10 | 62 | 1.6 | 60 |
10≦ <12 | 55 | 1.4 | 50 |
12≦ | 45 | 1.1 | 40 |
参考)『第一線医師・研修医・コメディカルのための新・輸液ガイド すぐ役立つ手技・手法のすべて 縮刷版』
Medical Practice編集委員会・編 文光堂 p144 表3
④ 炭水化物、蛋白質、脂質の摂取目安を確認する
摂取カロリーの目安はわかったとして、1日にどれくらいのご飯を食べればよいのでしょうか?
例えば……
母の1日必要カロリー 2000kcal
子どもの1日必要カロリー 1200kcal
上記のような場合、摂取カロリーの比率は 母:子ども=5:3 となります。
つまり、母のご飯の半分よりちょっと多いかな、くらいが子どもの適正量ということです。
これだけわかれば十分です。
あとはご飯を作ってミキサーするだけ!
でも、もうちょっと詳しく知りたい方のために、
炭水化物、タンパク質、脂質のそれぞれの摂取目安を考えてみましょう。
それぞれの摂取目安を正確に計算する場合は必要蛋白量から計算しますが、ここではもう少し簡単な方法で考えていきましょう。
厚生労働省の基準では、1日のタンパク質(P)、脂質(F)、炭水化物(C)の比率(PFCバランス)を「タンパク質13~20%」「脂質20~30%」「炭水化物50~65%」で配分すると良いとしています。
簡単にするためにP:F:C=1:3:6とします。
必要カロリーを当てはめ、それぞれのカロリー配分を確認します。
蛋白質4kca/g 脂質9kcal/g 糖質(炭水化物)4kcal/g でそれぞれのカロリーを割るとだいたい1日何グラム摂取すればよいかがわかります。
例) 1日の必要摂取カロリーが1200kcalの場合
P:F:C=120:360:720
蛋白質 120kcal÷4kcal/g=30g
脂質 360kcal÷9kcal/g=40g
糖質 720kcal÷4kcal/g=180g
となります。
実際の蛋白質の食事摂取推奨量はこれよりも少なくなっていますので、これはあくまでもかなり大雑把な目安と思ってください。
参考)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
00_1_表紙_cs6_1220.indd (mhlw.go.jp)
これを食品に置き換えるのは難しいですが、だいたいの目安を作ることはできます。
例えばお米100gあたり糖質35.6gなので、単純にお米だけで糖質を摂取する場合
180g÷35.6g×100g≒506g
となりますが、おかずからも糖質は摂取されるので、これのおよそ3分の2程度を目安とします。
つまり、506g×2/3=337g 程度が1日に食べるお米の量となります。
豚肉、牛肉、鶏肉のそれぞれ100gあたりの蛋白質が14g、17g、20g程度です(部位によって差があります)。
つまり肉類は1日に150gくらい食べていればよさそうだとわかります。
豚肉、牛肉、鶏モモ、鶏胸のそれぞれ100gあたりの脂質が35g、30g、13g程度です(部位によって差があります)。
肉類を1日に150g程度食べていれば十分だろうと予測できます。
これでだいたいどれくらいの量を入れればよいのかがわかりましたね!
さて、ここまで栄養を考える理屈を紹介しましたが、
こんな面倒なこと本当に毎日考えてると思います?
普段のご飯を作るときに考えますか?こんなこと。考えないでしょ?
ご飯、おかず、野菜の配分なんて適当じゃない?
胃瘻栄養も同様、そんなに厳密に考えなくても、先に述べました親と比較した摂取カロリー比率がわかれば十分です!
「入れる量はOK!じゃあ次は……」
いよいよミキサー食を注入してみましょう!
ところで、ミキサー食って見たことありますか?
職業によって、または介護の経験があれば馴染み深いでしょうが、一般的には見たことない人も多いのではないでしょうか?
どんなもので、どのくらいの硬さのものなのかイメージできますが?
とりあえず作ってみて考える、というのもありですが、慎重な方はまずレトルトを試してみるとよいかと思います。
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ミキサー食と言ってはいますが、実は初期離乳食とそんなにかわるものでもありません。
ですから、少量だけ試してみたいときには、5ヶ月児向けレトルト離乳食がお勧めです。
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さて、今回はミキサー食を作る前に知っておきたいことについてでした。
次回はミキサー食を作る準備についてのお話の予定です。