短期入所(ショートステイ)の課題〈緊急時の受入〉
短期入所(ショートステイ)に求められる機能でありながら、多くの課題を含んでいるのが緊急時の受け入れです。
利用者の心情としては
「ケアを担当している親が倒れた!この子を今日、今すぐ預かってくれるところが欲しい!」
そんな時、「はい、どうぞ」と受け入れてくれる施設があれば心強いですよね。
しかしながら、実際にはそうならない場合がほとんどです。
令和2年時点では緊急受け入れベッドを常時確保している短期入所(ショートステイ)事業所は全国で1割未満でした。
これは令和2年の話ですが、この数年で劇的に増えたとは思えません。
なぜ緊急の受け入れができないの?
緊急の受け入れに対するニーズは高いですが、事業所側から見れば緊急時支援は難しい事業の一つです。
理由① コスト
難しい理由の一つはコスト。
緊急用にベッドを一つ確保しておくということは、空いているベッドが常にあるということになります。
ベッドが埋まらなければ事業所は収益を得られません。
空いているベッドが常にある状態というのは事業所にとっては損失になります。
緊急受入加算というものはありますが、ベッドを常に確保しておくだけの収益になるかどうかは微妙なところ。
よって緊急の受け入れに関しては「ベッドに空きがあれば……」ということになるのですが、そもそもショートステイの利用は何カ月も前から予約が必要なことがほとんど。
運よく空きがあるなんてことはほとんどありません。
じゃあ、結局緊急の受け入れはできないのか?
というと、そこは事業所次第ということになります。
緊急受け入れ可能としている事業所であれば、常時ベッドの確保がなかったとしても、緊急受け入れの要請があった際、予定していた利用者と交渉してベッドを空けるなどして、できる限りの範囲で受け入れてもらえます。
端的に言ってしまえば、緊急の受け入れができるかどうかは事業所の調整力にかかっているってことです。
理由② ケアの引継ぎ問題
緊急の受け入れが難しいもう一つの理由は、ケアの引継ぎ問題です。
医療的ケアを安全に安心して任せることができる。
医療的ケア児(医ケア児)や障害児者を預ける上で最も重要なポイントです。
だからこそ、預ける際はここが一番の問題になってきます。
医ケア児と一括りにしてみたところで、それぞれ障害の程度も違うし必要なケアも、その必要度も一人一人違います。
その上、家庭ごとにこだわりがあったりタブーがあったり。
そこら辺の引継ぎをしないことには、預ける側も預けられる側も
「じゃあ、この子今日からお願いします」「はいわかりました」
とは言えない。
ということで、緊急の受け入れが可能な事業所であったとしても、「初めまして」の子は受け入れてもらえない場合がほとんどと思われます。
少なくとも1回以上はその事業所の短期入所(ショートステイ)を通常利用していなければ、緊急の受け入れは難しいでしょう。
これは安全・安心な医療的ケアを提供するために仕方のないことです。
利用者としては、緊急時に使えるように、たとえ必要性があまりなかったとしても普段から定期的に使うようにするしかありません。
普段から使ってないと受け入れできない?それって本当に緊急の時に困らない?
緊急時に使えるように、無理やりでも定期的に短期入所(ショートステイ)を使うようにしていたとしましょう。
ですが緊急時、その施設内で調整ができず、結局受け入れが不可能だった場合はどうしますか?
第一候補の施設がダメなら第二候補の施設に掛け合うしかありません。
となると、普段から2か所、3か所と定期的に利用する施設を持っておかなければいけないってことになりませんか?
それはちょっと……、どころか結構大変……。
そもそも近隣に2か所も3か所も緊急受け入れ可能な施設があったかしら?
とはいえ、緊急時の対策としては、そうするしかないというのが現状ではあります。
さてそこで、この問題を解決する方法の一つとして、普段から利用する訪問看護ステーションと連携するという方法が考えられます。
緊急で短期入所(ショートステイ)を利用しなければいけなくなった際、普段からその子を見ている訪問看護師が介入し、親の代わりにケアの引継ぎや必要に応じて事業所への情報提供、子どもの状態確認などを行う、などの連携があれば、定期的な利用のない子でも短期入所(ショートステイ)を緊急的に利用することが可能かもしれません。
これが可能であれば、定期的に通うことのできない多少遠方の施設でも預け先の候補とすることができるため、近隣に短期入所(ショートステイ)が複数存在しなかったとしても、緊急時の預け先の候補を複数見積ることができます。
ただ、この連携を前向きに考えてくれるような訪問看護ステーションがなかなかないというのが現実です。
なぜなら人手がないから。
昨今、どこもかしこも人手不足なのです。
しかし、上記のごとく訪問看護ステーションとショートステイが連携してくれれば利用者としてはメリットが大きいのは確かです。
これは、利用者の方から働きかける必要のある事項かもしれません。
ケアの引継ぎにあたっては手順書の作成と共有が効果的です。
以下リンクの記事でサンプルフォーマットをダウンロードできますのでお子さまの特徴にあわせて活用されてください。
C-6 暮らしに役立つ『ケア手順書』 | 暮らしの記事|医ケアkidsナビ
●本記事はNPO法人Solways代表にインタビューした内容をもとに作成しております。
※NPO法人Solways
NPO法人ソルウェイズ | スペシャルニーズのある子どもたちへ
札幌市および石狩市を拠点に、医ケア児や重症心身障害者・児を支えるための事業を展開する団体。現在、重症児デイサービス、生活介護、居宅介護、訪問介護などを運営。
2022年より「北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト(いけプロ)」をスタート。地域へのインクルーシブ拠点として小児科クリニック、病児保育、放課後等デイサービス、ショートステイ、カフェを併設する複合施設「あいのカタチ」を建設。2025年5月開業。