I-8 インタビュー(株式会社ゆらりす)

 

この企画の目的は、民間企業が提供する医療的ケア児が利用可能な製品・サービス・プログラムの紹介を通じて、一人でも多くの方々に医療的ケア児を取り巻く環境に関する社会課題について知って頂くことです。第八回目となる今回は、「障害を持つ子供を中心に、おむつをしていると採尿が難しい」という課題を解決するために、採尿サポートパッド「ゆらりす」の開発提供に取り組む期待のスタートアップ株式会社ゆらりすの河村代表にお話を伺いました。

 

 

I-8 インタビュー(株式会社ゆらりす)

 

I-8 インタビュー(株式会社ゆらりす)

 

 

 

インタビュー内容

 

1.河村代表の自己紹介

2.採尿サポートパッド「ゆらりす」の開発背景と思いについて

3.製品の特長とこだわりについて

4.ユーザーの声

5.今後の展望

6.メッセージ

 

 

 

インタビュー

 

1.自己紹介

 


鈴木
:本日はお時間をありがとうございます。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

 

 

河村さん株式会社ゆらりす代表取締役の河村峻太郎と申します。医学部卒業後に、「今の医療や仕組みでは解決されていない病気を治せるようになりたい」という思いから、基礎医学研究に携わりつつ、健康課題の解決を目指した生活現場発の製品開発に取り組んでいます。

 

 

I-8 インタビュー(株式会社ゆらりす)

 

 

 

2.採尿サポートパッド「ゆらりす」の開発背景と思いについて

 

 

鈴木:「ゆらりす」を開発しようと思ったきっかけはなんですか?

 

 

河村さん在学時から大学病院の看護師さんにヒアリングを行っていたのですが、ある時、「排尿をコントロールできない患者さんだと、おむつ内におしっこが出されてしまい採尿ができない」という困りごとを聞く機会がありました。調べると在宅介護でも同様の課題があり、重症心身障害児を育てるあるお父さまから、「採尿には毎回頭を抱えている」と切実な声を聞きました。「これは何とかしたい」と感じたことから、採尿サポートパッドの開発を始めました。

 

 

鈴木:開発にあたってどのような課題やニーズを感じていましたか?

 

 

河村さん「障害を持った子供を中心に、おむつをしていると採尿が難しい」という課題を解決したいと開発を始めたものの、重症心身障害児や医療的ケア児とそのご家族・支援者がどのように生活しているか、正直なところほとんど知りませんでした。そこで、放課後等デイサービスを経営されている知人の方にお願いして、施設内を見学させていただきました。そこで、笑顔でスタッフさんとコミュニケーションし、たくましく生活している子供達と出会い、本当に感動を覚えました。一方で、過緊張や呼吸困難症はやはり苦しそうで、また、食事・入浴・排泄という営み全てにハードルがあることを目の当たりにし、採尿の課題はほんの氷山の一角であることを痛感しました。

しかし、施設のご利用者様にアンケートをとってみると、約95%の方が採尿に課題を感じており、もっとラクに採尿できる方法のニーズは確かに存在していました。「おむつに脱脂綿を仕込む」などの対策をしても必要な量のおしっこが取れずに失敗してしまう方が多かったのです。微力でもいいから力になれればと思い、開発を完遂し、とにかく製品を「届ける」ことを目指しました。

 

 

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    3.製品の特長とこだわりについて

 

 

鈴木:他の採尿バッグとの違いや工夫している点があれば教えて下さい。

 

 

河村さん採尿バッグは、シールによって陰部に貼り付けてビニール内に尿を溜める製品ですが、着用中にシールが外れてしまったり、違和感から自分で外してしまうお子様もいらっしゃいます。一方で「ゆらりす」は、おむつに貼り付けて使える採尿用のパッドで、脱脂綿製の「採尿コア」に尿を取り溜めて、後で回収できるようにしています。シールやビニールが肌に当たることがなく、違和感なく使用できる点が大きな違いです。また、保護者様がよく対策としてやられる脱脂綿とラップを組み合わせた採尿方法では、尿をうまく絞り出せずに布団や服にはねてしまうなどの、衛生的な問題が出てしまいます。そこで「ゆらりす」には、専用の絞り袋やシリンジを同封させていただいており、衛生的かつラクに尿を回収できるように工夫しています。

 

 

I-8 インタビュー(株式会社ゆらりす)

 

 

鈴木:ご家族が日常的に使う上で「ラク」はとても大事ですね。使用している素材やデザイン面でのこだわりはありますか?

 

 

河村さんこの製品では、「心地よさ」を第一にしています。採尿コアを包み、おむつに固定するための「コアポケット」にはスポーツウェア素材の布を採用しており、肌触りの良さとムレ感の低減を目指しました。また、コアポケットのおむつに貼る側には、採尿コアからおむつに尿が染み出すのを防ぐためにビニールを使用しているのですが、周りをうまく布で隠すことで、肌に当たらないようにしています。

デザインとしては、「子供の健康を守りたい」というお父様お母様の思いを代弁できる形を理想としています。まだ改善の余地がありますが、「清潔感」を第一としつつ、機能性と「柔らかい」デザインの両立を実現できつつあると思っています。デザインコンセプトの大枠は多摩美術大学のデザイン学生が考えたものです。「ホッとする介護体験を提供したい」という思いから、「ゆらりす」という製品名とロゴも彼女が考えてくれました。また、過去にご自身が家族の介護、特に排泄介護で難しい思いをした経験を持つ同大学出身のデザイナーとその先生にも監修をいただいており、シンプルな見た目の中に、細やかな意匠が込められています。

 

 

鈴木:可愛らしく印象的なネーミング・ロゴでセンスいいなと思っていましたがそういったストーリーがあったのですね。

 

 

I-8 インタビュー(株式会社ゆらりす) 

 

 

4.ユーザーの声

 

 

鈴木:実際に使っているご家族/医療者からどのような反響がありますか?

 

 

河村さん実際に使用していただいているご家族からは、「今まで一度もできなかった採尿ができるようになって、安心した」というお声を何人からもいただいております。特に「うまく採尿ができて嬉しい、やった!」というお声を直接聞いた時は、「取り組んできてよかった」と苦労が報われた気がしました。実際に、今まで30分以上も採尿にかかっていた時間が15分以下になり、負担を半分以下に減らすことができています。

ただ、まだ製品としての課題も残っており、同時にうんちが出てしまった時には尿に便の成分が混ざってしまうので、さすがに尿検査には使用しづらくなります。関連して、医師からは「脱脂綿に保持した尿は検査結果に影響を与える可能性がある」、「中間尿(尿の出始めを取り除いた、清潔とされる部分)でないと正確に検査できない」という意見をいただくことが多いです。ただ、おむつをしている方の採尿を自宅で行うときは、基本的には脱脂綿+ラップ法が広まっていて同様の課題がありますし、医療機関でよく利用される採尿バッグも中間尿だけを取ることはできません。また、清潔な尿が求められることがありますが、皮膚にいつも住んでいる菌をすべて取り除くことは現実的ではありません。このように、おむつ利用者の採尿の課題があまり医療者側に知られていない中、医療者・行政が民間に自宅での採尿を強いているという見方もできると思います。こうした問題を解決するために、私たちが生活者の声を代弁する必要があると考えています。実際に、医療的ケア児のかかりつけ医や看護師など、生活現場の大変さを知っている医療者は「この製品は良さそう」とおっしゃってくれています。

 

 

鈴木:採尿時間を半分以下に抑えられるのは頻度高く採尿が必要なご家族にとって気持ちの面でも楽になると思います。もし印象に残っているエピソードがあればぜひ教えて下さい。

 

 

河村さん印象に残っているのは、ある一人のお客様(Kさん)と共にこの製品を作り上げたプロセスです。初め、試作品を何人かにご利用いただき、採尿の課題を解消できることは確認できたのですが、製品として世の中に出すためには、おむつに設置する方法など、いくつか課題が残りました。そんな中、医療的ケアが必要な二人のお子様のお母さんであるKさんが継続してゆらりすを使用してくれました。本当に多くのフィードバックをいただいたのですが、「採尿バッグだと当日の朝につける必要があり、バタバタの朝がさらに忙しくなる。それに対してゆらりすは肌に優しいから、採尿する前日の夜からおむつに設置できて、朝に余裕ができる」と、この製品の価値を教えてもらったことに特に感謝しております。この経験は、「現場の声を第一に、お客様と共に製品を作り上げる」という理念として弊社に刻まれました。普段の生活も大変な中、ゆらりすを試し続けてくれたKさんには頭が上がりません。これからも、少しずつでも恩返しできたらと思っています。

 

 

 

5.購入方法と今後の展望

 

 

鈴木:大事なことを聞き忘れていましたが「ゆらりす」はどこで買うことができますか?当事者視点としてはやっぱり価格も気になります。

 

 

河村さん現在は、「ゆらりすオンラインショップ」で、2個入り3,080(1,540/個、税込・郵送料別)を基本パッケージとして販売させていただいております。一度にご購入される数が多くなるほど、一個ごとの価格が安くなるようにしております(例:5個入り5,500(1,100/))。また公式LINEでは、ゆらりすのご利用サポートから、検査やお薬に関する個別の困りごとの相談を無料で承っています。ゆらりすの割引クーポンも配布していますので、ぜひ公式LINEからお気軽にご相談ください!

 

 

 

6.メッセージ

 

 

鈴木:それでは最後に医療的ケア児のご家族に向けて伝えたいメッセージがあればお願いします。

 

 

河村さんおしっこには、腎臓の病気だけではなく、血液成分バランスの崩れや脱水のサインが隠れています。特に医療的ケア児はてんかん薬などのお薬の副作用によって、腎臓がダメージを受けやすいリスクが高いので、一人の医師としては、定期的に尿検査を活用し、お子様の健康状態をチェックすることをお勧めしたいです。一方で、おむつ着用児の採尿では、どうしてもおしっこをすぐに回収できないので成分の変化も起きてしまうと考えられ、どのくらい正確に尿検査ができるかは今後の研究が待たれるところです。そんな中で、「採尿」という医療的な作業によって、ご家族がストレスを抱えてしまう、お子様の肌を痛めてしまうといったことを無くしたいと考えています。日々、ご家族は様々なご苦労をされていると思います。直接的に療育や医療的ケアのお力になれないことが心苦しいですが、せめて、日々の生活が少しだけ快適・便利になる喜びをお届けできたら幸いです。

 

 

鈴木:本日はお忙しい中ありがとうございました!「ゆらりす」の更なる深化を期待しています!

 

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